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仕事と向き合い、人と技術・素材の可能性を探求しています。
2020年から、未来を描くための社員インタビュー。

vol.5 織物は生き物だ。作り手の感性を信じ、織布の可能性を追求する

2020年12月

株式会社イノベックス 製造部 織布課  Y.I

静岡県袋井市にある株式会社イノベックス ダイオ袋井工場は、国道1号線に面した工業地域の一角にある。工場内では、ジャンジャンジャンジャンと織機が大きな音を立て、緻密な織布を生み出していた。ダイオ袋井工場は、1956年に東海編織(株)として、国内で初めて合成繊維による防虫網の製造を開始、1964年袋井工場設立、1970年にダイオ化成に称号変更した。2005年にウェーブロックグループの一員となり、今年2020年4月に株式会社イノベックスに経営統合した。現在まで、家庭用の網戸に使われる防虫網(ぼうちゅうもう)の製造では国内トップのシェアを維持している。高速で動き続ける織機に向かうのは、織布課に所属する30名。今回は課長のY.Iさんにインタビューを行った。ダイオ袋井工場の製造現場には、人の感性を大切にする働き方があった。

国内トップのシェアを誇る、防虫網と農業用シートの製造

−  ダイオ袋井工場は何名の方が働いているのでしょうか。

Y.I 現在は86名です。男性46名、女性40名。社員に加えて、協力社員の方や、派遣社員の方もいます。

 

−    ダイオ袋井工場、ダイオ掛川工場は、どのような部門に分かれているのですか?

Y.I  どちらも管理部、製造部、物流があり、製造部は袋井工場、掛川工場にまたがっています。袋井工場の製造部は、織布課、検査課の工程があります。掛川工場は織布の製品原糸となる糸を作る紡糸課と、編物(ラッセル編)製品を作る編立課があります。

 

−    織布課はどんな体制で製造を行っていますか?

Y.I  織布課は30名おり、男性6割、女性4割の比率でしょうか。係としては、整経、織布、保全というセクションに分かれています。整経は、掛川で作られた糸をビームという大型のロールに巻いて経糸(タテ糸※)を準備する工程。織布は、織機で緯糸を挿入し織物を織っていく工程、保全は機械のメンテナンスです。織機は平日24時間稼働させています。
※織物の分野では、縦方向になる糸を経糸(タテ糸)、横になる糸を緯糸(ヨコ糸)と書きます。

 

−    日勤のほかに、夜間勤務の方もいるのですね。

Y.I そうです。僕も10年くらいは夜勤を含む交代勤務をしていました。慣れると交代勤務のほうが良かった気もしています、意外と自分の時間ができるんです。現在は、3交替制で稼働しています。

 

−    織布工程では、何種類くらいの製品ができていくのですか?

Y.I アイテム数は、かなり多いですね。一番多いのは家庭用の防虫網です。幅が違ったり、目合い(メッシュ)の大きさが違ったり仕様は様々です。それから、農業用ハウスに掛けるネットなどもあり約20~25種類を製造しています。

 

−    防虫網には防虫剤が入っているのでしょうか。

Y.I 防虫剤は入っていません。網で虫の侵入を防ぐので、防虫網といいます。ただ、私たちの製品には、「虫が嫌がる網」という物もあります。これは糸に薬剤を混ぜていますが、人や環境には害がありません。「虫が嫌がる網」は蚊も蛾も寄ってこないので、非常に人気があります。

 

−    防虫網の素材や形状は、どのようなものがあるのですか?

Y.I 防虫網は、ほとんどがポリプロピレン(PP)です。糸の種類は各規格に合わせ様々な規格があります。目合いの種類も色々あり、目合いの荒いものから細かいものまで様々です。 ちなみに目合いの単位(メッシュ)は、1インチ(25.4mm)においての打ち込み本数を表します。

 

−    農業用のネットはどんな素材ですか?

Y.I 農業用のネットは、主にポリエチレン(PE)、一部、ポリプロピレンもあります。ハウスに掛ける遮光シートから、田んぼの畦道に敷くシートなども製造していますが、防虫網とは糸の形状が大きく違います。フラットヤーンという平べったい形の糸で、僕らはテープとも呼んでいます。

 

−    製品は、どのような形に仕上げて出荷しているのですか?

Y.I お客様先によって対応は様々です。例えば防虫網は、全量検査後、規格に合わせ測長カットし梱包、最終製品となります。また別途農業資材などはお客様のサイズ注文に合わせ縫製加工なども対応しております。僕らの特徴といいますか、製品原糸を作るところから最終の製品になるまで全て袋井・掛川工場で行っているので、製品化のレスポンスの速さは一番の強みだと思います。営業さんからこういう商品が欲しいと言われて、糸を作る検証から製品化まで全て自分たちで作業できる環境です。

面白くも奥深い、人の感性が品質を支える

整経工場では、経糸を準備する作業が行われていた。掛川工場で作られたモノフィラメントの糸をビームと呼ばれる大型のロールに、均等な幅を維持しながら巻いていく。壁を挟んですぐ隣に位置する織布工場は、多数の織機が並ぶ、壮観な光景だ。一定のリズムを刻みながら、高速で織機が稼働している。製品によっては300回転、つまり1分間に300回も緯糸が織り込まれているのだという。取材中には、Y.S工場長にもお話を伺うことができた。

 

Y.S工場長 織り機といっても、様々な種類があるんですね。緯糸(ヨコ糸)をどうやって通すかという違いがあり、ウォーター織機、エアー織機というものがあります。これは水や空気の力で緯糸を飛ばす機械です。我々の工場では、プロジェクタイル織機という織り機を使います。プロジェクタイルという部品が緯糸を掴んでバチーンと高速で飛び、経糸と交差して織り上げていく仕組みです。プロジェクタイル織機は汎用性が高く、細い糸から重さのある糸にまで対応でき、製品のゾーンが広い。だから私たちは、お客様からの反応や市場要求に応じた商品展開をすることができます。機械は買えば持つことができますが、何よりも難しいのは、技術面です。どうやってアレンジし、調整していくかという匠の部分は、製造する人の腕にかかっています。

 

−    織機の横幅が長いですね。

Y.I  織機幅は4m以上あるものもあります。防虫網を織る場合、製品が91cm幅のときは4幅分を同時に織ることができるんです。農業用のネットなどは幅4mのものを織ることもある。目合いの大きさも個別に調整するので、それだけ様々な種類の製品を作ることができるんです。

 

−   製造について、特に気をつけていること、難しい部分はどんなところでしょうか。

Y.I 一番に思っているのは、安全であることが良い品質につながるということですね。これは、みんなにも発信したりして、一人ひとりが意識を高められるように気をつけています。「織物は生き物だ」って思うんですよね。同じ条件で防虫網を作っても違う風合いになったりする。品質というのは保つのが非常に難しい部分です。品質の調整というものが一番苦労するし、難しい。

 

−    品質というのは経験不足だと、なかなか気がつかないものではありませんか?

Y.I それが、意外とそうでもないんです。織っていると、綺麗に織れているものとそうでないものは、やっぱりわかるんですね。僕らの工程でもわかるし、検査の人たちは、毎日何百メートルも織物を見ているので目が鋭い。検査から厳しいお言葉をいただくこともあるんですが、僕らが気づけなかったことを見つけてもらえるので、助かっています。

 

−    品質のブレは、どういった理由が考えられるのですか?

Y.I いくつも要因があるのですが、例えば、糸のちょっとした引っ張りの強さの違いだけで糸が緩んでしまったりする。起きやすいトラブルには、紡糸課、整経係とも相談して対策をとってきたので今では減少してきています。

他の人のために仕事をするチームを目指して

−    Y.Iさんは、どんな風に仕事を覚えていきましたか?どのくらい時間が経って、一人前になったという手応えがありましたか?

Y.I  僕は入社当時、ベテランの班長さんに教わりました。事細かに全て教えてくれるわけではないけど、一緒について歩いて「ちゃんと見て覚えなさい」という感じでした。未だに一人前にはなっていないかもしれないです。年々、歳を取るごとにできる仕事を増やさなければいけないと思うので、自分ができるようになったと、そこまで思ったことはないかな。

 

−    教える立場になってから、後輩への伝え方で気をつけていることはありますか?

Y.I  自分の頃は「見て覚える」という雰囲気でしたが、今は、作業者と同じ目線を持ちきっちり始めから終わりまでの作業を教えるようにしています。そうすれば、できないのか、やらないだけなのか、思いつかないのかがわかる。そうすることで、きっちりできる人が多いので、そこだけは気をつけていますね。細かな指示でも伝えるようにしています。

 

−    仕事との向き合い方では、どんなことに気をつけていますか?

Y.I 先ほども言いましたが、安全に仕事すること。怪我をしない。それから、思いやりを持つ。次の工程の人のことを考えた作業をすることですね。ある意味サービス業ですかね、自分の仕事だけでなく視野を広げるようにしています。そう心がけてきました。

 

−    これまでの仕事や担当された製品で、特に思い入れのあるものはありますか?

Y.I 新しく経験する仕事は、全部、思い入れがありましたね。今もまさに、今年の4月に課長になったばかりなんです。仕事を任されて、正直、「できるかな」という不安しかないんですけど。それから、課員にやってもらうことも多くなりました。彼らも同じように「できるかな」で取り組み始めてもらって、手こずっていたりすると、大変そうな苦い顔もするし、自分もするし。でも、慣れてきて「こうしたらできたよ」と言う時のその人の顔と、安堵感。そういった姿を見るのは、すごく僕も嬉しいです。

 

−    今後、取り組んでいきたいこと、目標などを聞かせてください。

Y.I  機械を扱っているので、何度も言っているのですが、安全の確保が大前提です。安全な作業環境を作った上でのチームワークの強化、品質の向上、作業の効率化をしていくことが今後の目標です。もうひとつ。他の人のために動ける人を育てたいと、すごく思っています。一人ひとりが、仕事に対して区別をしないこと、簡単な仕事でもみんなの仕事だという意識が大切だとずっと思ってきました。仕事の分担はあっても、手が空いている人がいたら、周りを手伝って一緒に作業すれば早く終わるし、良い結果がでる。そういう意識づけを織布課の中では進めています。ちょっとずつみんなも変わってきてくれています。みんな、良い仲間なんですよ、ほんとに。